DYGL、前作から約2年ぶりとなる新作アルバム、『Songs of Innocence & Experience』堂々完成。初の大規模ツアーを経験し、イギリスへ拠点を移したバンドの第二章。
1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』の発表以降、アジアを股に掛ける初の大規模ツアーを経て、欧米諸国を含むフェスをはじめ、実に様々な舞台を経験し、バンドは大きく成長した。そこで培った推進力により自然と2ndアルバムへの制作へと向かい、バンドは環境を整えるためにも渡英。メンバーはノースイーストロンドンに居を構え、シングル「Bad Kicks」を発表。当初シングル制作の流れでアルバムレコーディングは予定されていたが、より納得のいく作品を作るために制作は一時延期する。そうして少し時間をおき、バンドは改めて全員で一丸となり作品に取り組んだ。その成果が今作『Songs of Innocence & Experience』である。前作が、The StrokesのAlbert Hammond Jr.をプロデューサーに招き、王道ガレージ・ロックを往く作品であったと言えるのであれば、今作はPalma VioletsやYuck、Childhoodの作品を手がけてきたRory Attwellをプロデュ―サーに迎え、60年代後半から70年代にかけての実験精神を携えたThe Beatlesやサイケデリックなプログレッシヴ・ロック、あるいはEcho and the Bunnymenを彷彿とさせる耽美なポストパンクといった、バンドのフェイバリットでもあるアーカイヴをふとぶとと自身の作品に解放した内容となっている。アレンジにおいては、バンド楽器以外のピアノやシンセサイザー、サックス、ツィター、はたまた打ち込みに到るまで、ポストプロダクションに創意工夫を凝らしつつ、これまでのDYGLには見られなかった持続的でサイケデリックな楽曲や、AORフィールなミディアム・ナンバーなど、多様性を担保しながらも、さりとてDYGLらしさである、血の通ったシンプルでストレートな強さは今作においても健在だ。そして、その中にある「歌」は艶と存在感を増し、登場人物である彼・彼女たちの夢と葛藤の物語をストーリーテリングする。初期からのレパートリーである"Nashville"を除けばこの2年間に蓄積された楽曲から成る本作は、群像劇の様相を呈して曲ごとに絡み合い、一貫したテーマを孕んだ強度を持つ作品となった。そのヒントになったというウィリアム・ブレイク著『無垢と経験の歌』にはそれぞれの観点から物事を見つめるという点において、少なからず、彼らがいまという時代のエートスを強く自覚するものに他ならない。黄昏の感覚が横溢している中に、DYGLは確かな微熱をたたえて中道を往く。割り切れない感傷を連れて、ピュアに生き抜くには現実は厳しくタフだが、同時に尊いことであると今作は示してくれる。
- Disc1
- 1. Hard To Love
- 2. A Paper Dream
- 3. Spit It Out
- 4. An Ordinary Love
- 5. Only You (An Empty Room)
- 6. Bad Kicks
- 7. Don't You Wanna Dance In This Heaven?
- 8. As She Knows
- 9. Nashville
- 10. Behind the Sun