「人生の旋律、愛の組曲――曽根麻央が紡ぐ、色彩豊かな音の世界」ジャズピアニスト兼作曲家・曽根麻央が贈る最新スタジオアルバム『8つの小品』。
第一子誕生という人生最大の節目に生まれたこの作品は、家族の愛、日常の輝き、そして音楽への深い探求が織り込まれた45分間の組曲。緻密なオーケストレーション、ジャズとクラシックの垣根を超えた響き、そして親子の時間から生まれた優しくもダイナミックな旋律。新たな旅立ちの予感と共に、音楽の喜びを届ける一枚。 【『8つの小品』 - 作曲の経緯と各曲について】作曲家として、既存のジャズの編成を超えた作品に着手したいという気持ちは20代の頃よりありました。大掛かりな管弦楽のアレンジを提供する仕事は海外向けにこなしてきたものの、国内では自分の頭の中で聴こえているもの全てを現実で表現する機会には恵まれませんでした。そこに第一子の誕生という最大のライフイベントが重なり、娘に色彩豊かな音の世界を体験してほしい想いが強くなりました。創作意欲を掻き立てられ、本作品の制作へと自然と体を向かわせていました。『8つの小品』のほとんどの楽曲とフルスコアは、2024年の2月に、娘が生まれて最初の1ヶ月の間に書き上げました。ベビーベッドの横に電子ピアノと五線紙を用意して、ヘッドフォンで3時間授乳の間を縫って作曲しました。8つの楽曲で1つの組曲を編成しようとしたのは、娘が誕生して最初の1ヶ月間、家族で滞在していた場所の地名に「八」という数字が入っていたことにアイディアを得たからです。「Ⅰ. Overture (序曲)」は組曲を編成しようと決めて最初に取り掛かった曲で、常に転調を繰り返すこの曲調はここから始まる人生の無常さを表しています。しかしイントロとエンディングでは帰するべき変ロ短調に戻ってくるという仕組みになっています。「Ⅱ. The Light You’ll See」は、まだ組曲としての着想を得るより前、娘が生まれる前にスケッチを書いた曲です。まだ見ない光をこれから見るために、小さな子が冒険に向かって歩み出す様をイメージして、当時参加していたバンドのツアー中、飛行機の中で作曲しました。組曲への編成を決めてからマッシヴなオーケストラver.に編曲しました。録音では娘のトイピアノも活躍しています。「Ⅲ. Maria’s Eye」は生まれたばかりの赤ん坊の目が一点の曇りもなく、エネルギーに満ち溢れていて、この世の何よりも綺麗な物だったので、分娩室から帰宅してそのままピアノに向かい作曲しました。娘が生まれたその日に書いたメロディーです。「Ⅳ. When the Angel Cries」は組曲を書き上げていると同時にやってくる赤ちゃんが泣くタイミング、その時の緊張感や、夜泣きから解放された時の安堵感を表現したものです。レコーディングではギターの井上銘と宮地遼が素晴らしいソロを演奏しています。「Ⅴ. Lullaby (子守唄)」はタイトルの通り、赤ちゃんが寝ている横で作曲する過程で自然と書き上がった曲です。実際には歌詞もついていて、寝かしつける時に歌ってみたりしていました。フレンチホルンの音色や金管五重奏のコラールもイメージして書いた曲で、そのイメージをそのままレコーディングに活かしました。「Ⅵ. Rumba」は私が好きなグルーヴでもあるフラメンコ・ルンバを娘にも聴いてほしいなという思いから書いた曲で、世界を旅しているかのようなワクワク感のある曲に仕上がりました。ちょうど録音の一年前に徳永兄弟の公演で共演した素晴らしいフラメンコ・ギタリスト、徳永康次郎に参加を打診すると快く引き受けてくれて、この素晴らしいトラックを完成させることができました。ギターソロだけでなく、パルマ(手拍子)も録音してくれて楽曲のカラーを決定づけてくれました。「Ⅶ. Love Letter」で参加したソプラノサックスのエドマー・コロンは私の20年来の友人で、エスペランサ・スポルディングのアルバム編曲だけでなく、ワシントン・ナショナル交響楽団、ボストンPopsなどの米国の一流オーケストラに委託作品を提供するなどして、ここ10年ですっかり作曲家として注目される存在となりました。この曲ではサックス奏者としての彼の素晴らしい一面を収録することができました。実は組曲の中では1番最初に作曲した曲で、数年前に妻に宛てて書いた曲でしたが、今回改めて組曲に編成し直しました。タイトルのついてない未発表曲だったので改めて「Love Letter」と名付け、家族との愛、友達との愛、仲間との愛など、様々な愛をテーマに作曲しました。「Ⅷ. Finale」は7曲のフルスコアを書き終えた後に、全ての曲にモチーフを使って書いた曲です。初期の構想ではシンプルなファンファーレとする予定でしたが、書き直していくにつれ、8分超えの大作になっていました。Part 1は主に「Rumba」や「Maria’s Eye」のモチーフをベースにパーカッション奏者のKanをフィーチャーしています。Part 2は「The Light You’ll See」のモチーフを中心に曲が発展し徐々にクライマックスを迎えると、「Lullaby」のメロディーや「When The Angel Cries」のメロディーが聴こえてきます。そしてやがてそれは「Love Letter」のメロディーへと流れを誘導しヴァイオリンとピアノのデュオで静かに再現されたかと思うと、一気に「Overture」のモチーフが長調で華やかに再現され、その上でFrench Hornが高らかに「Maria’s Eye」を奏でて曲が終わります。CDのアートワークには作曲中、私のピアノの上に置かれていた笠原嗣空の水墨画を選びました。作品を制作するのに全面的に理解を示してくれたリボーンウッドのチーム、音楽の核となるべく献身的に取り組んでくれたリズムセクションの宮地遼と鈴木宏紀、参加してくれた全てのアーティスト、スタッフに感謝いたします。そして『8つの小品』を45分間の聴覚体験としてみなさんに贈ります。曽根麻央
- 1. Ⅰ. 序曲 feat. 宮地遼, 鈴木宏紀
- 2. Ⅱ. ザ・ライト・ユール・シー
- 3. Ⅲ. マリアズ・アイ
- 4. Ⅳ. ウェン・ジ・エンジェル・クライズ feat. 井上銘, 宮地遼, 鈴木宏紀
- 5. Ⅴ. 子守唄
- 6. Ⅵ. ルンバ feat. 徳永康次郎, 宮地遼, Kan
- 7. Ⅶ. ラヴ・レター feat. エドマー・コロン
- 8. Ⅷ. フィナーレ・パート1 feat. Kan
- 9. Ⅷ. フィナーレ・パート2 feat. 宮地遼, 鈴木宏紀
- 10. ワルツ・フォー・デビー
- 11. ア・ソング・フォー・ジョビン
- 12. 子守唄 (ピアノ・ソロ・バージョン)
