1953年、ニューヨーク生まれ、ジャズの理想を追求した名門レーベル、ベツレヘム

プロフィール

Bethlehem Records（ベツレヘム・レコード）は、1953年にニューヨークでスイス出身の実業家グス・ウィルディ（Gus Wildi）によって設立されたジャズ専門レーベルである。設立当初はポップス寄りのシングル盤を中心に展開していたが、商業的成果が乏しかったことから、方向性を大きく転換。若きプロデューサー、クリード・テイラー（Creed Taylor）を起用し、アーティスト主導の自由な録音スタイルを追求するジャズ・レーベルとして再出発を果たした。

Bethlehemの特色は、演奏者に創作の主導権を与える姿勢にある。スタジオの制約を最小限に抑え、自然な即興性を活かした録音を重視する姿勢は、当時としては革新的であった。また、音響面でもエンジニアのトム・ダウドらによる高水準の録音技術を導入し、リスナーに生々しい演奏体験を提供した。加えて、グラフィック・デザイナーのバート・ゴールドブラット（Burt Goldblatt）によるアート性の高いジャケットデザインも、Bethlehem作品の重要な魅力の一部となっている。

リリースされた作品には、後にジャズ史に名を残すアーティストの初期録音が数多く含まれる。代表的な例として、ニーナ・シモンのデビュー作『Little Girl Blue』（1958年）は現在も高く評価されており、Bethlehemの代表的タイトルのひとつである。そのほか、クリス・コナー、オスカー・ペティフォード、アート・ブレイキー、ハービー・ニコルス、メル・トーメらが同レーベルから作品を発表しており、ジャンルの枠を超えた多様性と実験精神に満ちていた。

1960年代に入ると、BethlehemはKing Recordsとの業務提携を経て、1962年に同社に買収される。その後も複数の企業を経て権利は移動したが、長らく音源の再発は限られていた。2010年代にVerse Music Groupがカタログを取得し、本格的な再発プロジェクトが始動。2015年にはBMGがVerseを買収し、Bethlehemのアーカイブはようやく安定した再評価の機会を得るに至った。

Bethlehem Recordsは、その短い活動期間にもかかわらず、1950年代ニューヨークのモダン・ジャズ文化を象徴する存在として今日でも高く評価されている。アーティスト主義の精神と美意識に貫かれたそのカタログは、ジャズの創造性と独立性を体現する歴史的遺産といえる。

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